もうひとつ、別の裁判についてまとめてみたいと思います。中国電力が祝島の住民の会に対して、海上ボーリング調査を妨害しないよう求めている裁判です(正式には「妨害予防請求事件」というそうです)。こちらは現在係属中です。今、中国電力の社長を尋問するか否かという段階のようです。
中電社長への尋問「必要性ない」 上関原発海上ボーリング調査訴訟 中電側が意見書 | 中国新聞デジタル
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ブログ主なりにいろいろ調べてみると、この裁判、単に「調査の妨害をするな」という内容にとどまらず、深い所でいろいろなものがつながっているようです。
そして、裁判の結果が与える影響は、相当に大きいのではないかとブログ主は想像しています。
まずは、事実関係からおさらいしてみます。
事実関係(1)裁判と中間貯蔵施設の動きが同時並行
2022年10月5日
中国電力が「上関原発を建てさせない祝島島民の会」に対し、海上ボーリング調査を妨げないよう求めて、柳井簡裁に申し立てた調停の第1回。不成立に終わる。
※中国電力側が申し立てた調停にも関わらず、島民の会側の主張に反論はなく、「現場で調査を妨害しないでほしい事を伝えるために調停を申請しただけで、祝島側と法律論争をするつもりはない」と伝えてくるなど、合意を得ようとする意思が感じられない対応だったそうです。
「中国電力による島民の会への民事訴訟に関して」 | 上関原発を建てさせない祝島島民の会 Blog
※2022年10月23日
2022年10月25日
中国電力が、上関原発予定地で海上ボーリング調査を妨げないよう「上関原発を建てさせない祝島島民の会」に求める訴訟を山口地裁岩国支部に起こす。
※この時点で、先の調停は「最後まで誠意をもって交渉しました」という中国電力側のアリバイ作りであり、この訴訟は祝島の住民団体を恫喝する目的のスラップ訴訟ではないかと疑われました。
同時に、今回の海上ボーリング調査は是が非でもやるという、中国電力の強い意思の表れだったのではないかと推察されます。
ただ、この時点ではまだ中間貯蔵施設の話は表面化していません。
※2022年11月28日
※2023年2月6日
上関町の西哲夫町長が西村西村康稔経済産業相(当時)と面談。国の財政支援を要請。
※2023年2月
上関町の西哲夫町長が中国電力に対し、「新たな地域振興策」を検討するよう要請。
※2023年8月2日
中国電力が上関町に対し、使用済み核燃料の中間貯蔵施設建設に向けた調査を申し入れ。
以上、町長選挙、中国電力による再度の埋め立て免許延長申請と許可、中間貯蔵施設建設に向けた調査申し入れへの地ならし、本件の裁判が同時並行で進んでいる様子がうかがえます。
事実関係(2)中国電力側が言明を避ける
中国電力による突然の提訴、海上ボーリング調査に対する頑なな姿勢、突然の中間貯蔵施設建設調査申し入れ。
これらを考え合わせて、島民の会やその代理人は、次のように疑い始めたようです。
今回の海上ボーリング調査は、原発新規立地のためではなく、実は中間貯蔵施設の建設を目的としたものだったのではないか。
島民の会側は裁判の中で、次のように中国電力を問いただします。
http://www.kumamoto84.sakura.ne.jp/Kaminoseki/OtuJunbi5.pdf
※2024年1月22日被告(島民の会)準備書面(5)P8~9より
2023年9月7日
島民の会側の求釈明;海上ボーリング調査の結果を中間貯蔵施設の設置許可申請に利用する予定はあるか
2023年11月5日
中国電力側の回答;現時点で海上ボーリング調査を実施できていないのであるから、実施した場合を仮定した求釈明には回答できない。
「現時点で実施できていないから、目的は答えられない」という珍妙な理屈付けはとりあえずスルーしましょう。
重要なのは、中間貯蔵施設建設目的かどうかについて、中国電力が否定も肯定もせず、回答を避けている点です。
図星だったのではないかと強く疑われます。
この裁判の影響
仮に、海上ボーリング調査が実は中間貯蔵施設建設の許可申請に必要なものだったとしたら、どうなるでしょうか。ブログ主が素人なりに考えてみました。
1.中国電力側はこの裁判に負ける
本来、原発新規立地のための埋め立て工事を理由に免許を得た海上ボーリング調査です。その妨害をするなと訴えている訳です。実は目的が違いましたなんてことになったら、中国電力側は裁判の理由を失うことになります。当然負けるでしょう。
2.埋め立て免許の有効性
山口県から免許を得て実施される工事です。県に申請した目的が実は嘘でしたなんてことになったら、その免許の有効性が問題になるのではないかと思います。
ひょっとしたら、埋め立て免許の取り消しなんて事態に発展する可能性もあるのではないかと思われます。
3.海上ボーリング調査ができなくなる
仮に免許が取り消されたら、中国電力は海上ボーリング調査ができなくなります。もちろん、必要なデータも取得できなくなります。
4.中間貯蔵施設の建設許可を申請できなくなる
必要なデータが取得できなくなったら、中間貯蔵施設の建設許可も申請できなくなるのではないか、という推測も成り立つでしょう。
もし、中国電力が目的を偽って海上ボーリング調査を行おうとしているとしたら、中間貯蔵施設の建設に向けた許可申請には海上ボーリング調査のデータが必要なのではないかと推察されます。周囲を海に囲まれた狭く急峻な土地に施設を建てようとしている訳です。地上でのボーリング調査だけでは足りない可能性は十分考えられます。
となると、海上ボーリング調査を実施できない状況に追い込んだら、中間貯蔵施設の計画そのものも白紙にせざるを得なくなるのではないかと思われます。
・・・なんだか最後は「風が吹けば桶屋が儲かる」的なまとめになってしまいましたが、実際この裁判は、報道される内容よりはるかに深い、重要な意味を持つ裁判ではないかと思われます。
今後も注目です。